毎朝、妻が起き出したごろに、息子を妻にバトンタッチしてアンの散歩に行く。
きちっと僕の横を歩くというしつけはまったくできていないので、彼女は好きなように匂いを嗅いだりしながらうろうろしている。
基本的にはなるべくアンの好きなように匂いを嗅がせているけれども、そのままだとアンは電信柱ごとに匂いを嗅いで行くので全く進まない。そこで一つの柱で匂いを嗅がせると一つはひっぱってとおりすぎるということを繰り返しながら進んで行く。
アンの散歩道の近くに、アンが絶対に通りたがらない道がある。ちょっと細い道で、昔はよくそこを通っていたのだけれども、その道の中にある一つの家の前に犬小屋があって、かつて一匹の犬がそこで飼われていた。その犬小屋の前にはいつも車が止まっていたので、その犬の正確な姿をみたことはないのだけれども、その犬は、僕らが通るとすごい勢いで吠えたてた。その度にアンは、びっくりしてすごい勢いでその道を通り過ぎたものだ。
どうもその犬がもうしばらく前からいなくなっているみたいで、僕が通っても全く吠えもしないし、いる気配すらしなくなった。何度かアンをだっこしてその道を通ったので、アンも今までとは違うということはわかっているのかもしれないけれども、ふつうにリードで引っ張ってその道を行こうとするとぜったいにアンは道の入り口(つまり交差点)で動こうとしない。必死に後ろに重心をかけて踏ん張っているのだ。
それでその道を行かずに別の方向に進むと、機嫌よくついてくる。たとえあの吠える犬がいなくなってもアンの記憶にはその恐怖が刻み込まれているのだ。
必死に踏ん張って動こうとしないアンもなかなかかわいくて、いつもわざとその小道に行くふりをしてアンが踏ん張っている姿を楽しんでいる。小さい体で、全力でいろんな感情とともにアンは生きている。その一所懸命さを思うと、ますますかわいい。

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